今日、企業に「これからの時代に求められるリーダー像」を尋ねると、多くの場合、似たような答えが返ってきます。
不確実な状況を乗り越える力があること。明確にコミュニケーションを取れること。信頼関係を築けること。そして、困難な局面でも人々をまとめ、前進させられること。
つまり、共感をもって人と組織を導けるリーダーです。
しかし、その一方で共感力は今なお抽象的な資質として扱われがちです。リーダーシップのフレームワークに盛り込まれ、採用要件にも記載され、実際に備えている人は高く評価されます。
ところが、採用や育成、人事評価の場面になると、「共感力とは何か」「どのような行動として表れるのか」を明確に定義できていない企業も少なくありません。
これは見過ごせない課題です。なぜなら、リーダーに求められる役割そのものが変化しているからです。
専門知識や高い成果は今も重要です。しかし、それだけでは十分ではありません。組織変革を推進し、ときに相反する優先事項を調整しながら、人々が力を発揮できる環境をつくることも求められています。
では、共感力がリーダーの必須条件になった今、それを単なる理想論で終わらせず、どのように実践へ落とし込めばよいのでしょうか。
まず、共感力を「性格」ではなく「行動」として捉える
共感力の評価が難しい理由の一つは、それを生まれ持った性質だと考えがちな点にあります。
しかし、リーダーに求められる共感力とは、単に親しみやすいことや好かれることではありません。意思決定を行う前に、多様な視点を理解しようとする姿勢です。
また、誰かが支援を必要としていることに気づき、相手に応じて伝え方を工夫し、成果を上げるために何が必要なのかを理解しようと努めることでもあります。
共感力を性格ではなく行動として捉えれば、その実態ははるかに見極めやすくなります。
実際、リーダーシップの真価が問われるのは、物事が順調に進んでいるときではありません。優先順位が衝突し、プレッシャーが高まり、正解が見えない状況に直面したときです。
例えば、次のような場面です。
関係者同士の意見が対立したとき、どのように対応するか
組織目標とチームの懸念をどのように両立させるか
難しい対話にどのように向き合うか
こうした場面こそが、その人のリーダーシップのあり方を最も鮮明に映し出します。
そして重要なのは、共感力は単に従業員満足度を高めるためのものではないということです。
周囲の人々の考えや動機を理解できるリーダーは、組織内の足並みを揃え、変化を乗り越え、難しい意思決定に対する理解と協力を得ることにも長けています。
多くの企業において、こうした力は組織の実行力や業績に直結しています。
採用だけでは解決できない
仮に共感力の高いリーダーを見極める精度が高まったとしても、採用だけで課題を解決することはできません。
多くの企業では、優れた個人プレーヤーを管理職へ昇進させ、その瞬間から優れたリーダーになることを期待しています。
しかし、個人として成果を上げるための能力と、組織を率いるための能力は必ずしも一致しません。
高度な専門知識や優れた成果を上げてきたとしても、人材育成や対立の調整、信頼関係の構築、不確実な状況におけるチームの鼓舞といったスキルが自然に身につくわけではないからです。
それにもかかわらず、企業はこうした能力をリーダーに求めています。
だからこそ、共感力は採用時の評価項目にとどめるのではなく、継続的に育成していくべきリーダーシップ能力として位置づける必要があります。
傾聴力は伸ばせる
好奇心は育てられる
自己認識は高められる
他者の立場を理解する力も磨くことができる
実際、共感力は研修以上に、多様な経験を通じて育まれることが少なくありません。
異なる部門との協働、多様なバックグラウンドを持つ同僚との仕事、世代を超えたチームマネジメント、顧客体験への理解などは、リーダーの視野を広げます。
自分とは異なる価値観や考え方に触れる機会が増えるほど、よりバランスの取れた意思決定ができるようになります。
つまり、共感力とは単に人を理解することではありません。
人を理解することで、より良い意思決定を行う力なのです。
本当に評価されているのは何か
多くの企業が直面する課題はここにあります。
共感力はリーダーシップコンピテンシーにも、人材育成プログラムにも、企業文化を語る場にも登場します。しかし、いざ人事評価の場になると、議論は成果そのものへと戻ってしまうことが少なくありません。
例えば、
目標は達成されたか
プロジェクトは予定どおり完了したか
チームは期待された成果を上げたか
もちろん、これらは重要な指標です。
しかし、成果だけを評価している限り、リーダーが成果だけを追い求めるようになるのは自然なことです。
企業は協働やエンゲージメント、信頼に基づくリーダーシップを重視すると言いながら、実際の評価制度は「何を達成したか」に偏り、「どのように達成したか」を十分に反映していない場合があります。
結果として、リーダーは評価される行動へと意識を向けます。
コーチングやコミュニケーション、信頼関係の構築、人材育成といった要素が評価対象になっていなければ、それらは後回しになりやすいのです。
重要なのは、共感力を評価することが、基準を甘くしたり厳しい対話を避けたりすることではないという点です。
むしろ、その逆です。
共感力は責任ある行動と相反するものではありません。むしろ、それを支える土台です。
人は、自分が尊重され、理解され、信頼されていると感じるときほど、厳しいフィードバックを受け入れ、高い目標に挑戦し、大きな変化にも前向きに向き合うことができます。
優れたリーダーは、共感と成果を二者択一で考えません。
共感を通じて成果が生まれる環境をつくっているのです。
「流行語」で終わらせないために
専門知識は今も重要です。戦略的思考も重要です。そして成果も欠かせません。
しかし近年、リーダーシップの有効性は、「何を成し遂げたか」だけでなく、「人々をどのように巻き込みながら成し遂げたか」によっても決まるという認識が広がっています。
共感は信頼を生みます。
信頼は協働を促します。
協働は実行力を高めます。
多くの企業はすでに、共感力が重要であるという結論に達しています。
残る問いは、その考え方が制度や仕組みに反映されているかどうかです。
リーダー選抜の際に共感力を評価しているか
キャリアを通じて共感力を育成しているか
共感力を示す行動を正当に評価し、報いる仕組みがあるか
組織のリーダーシップ文化は、企業が「重視している」と語る価値観によって形づくられるのではありません。
採用し、育成し、測定し、評価する仕組みによって形づくられます。
そして共感力がそうした仕組みの中に組み込まれたとき、それは単なる流行語ではなく、組織の競争優位を支える本質的な強みとなるのです。
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